2009年9月29日火曜日

FMステレオチューナ: 基板の製作

 今度は、感光基板の製作です。

 サンハヤトの基板製作手順をチラチラ見ながら作業を進めていきます。ただ、困ったことに感光基板はモデルチェンジで「クイックポジ感光基板」というものに変わってしまいました。感光基板製作の勘所は、個々の製作環境での感光時間の管理(露光装置、パターンフィルムの透過率、基板の感光感度)にあると思いますので、おかげで最適な感光時間を再度調べ直さなくてはなりません。


1.パターンフィルム
 基板エディタからアートワークをインクジェットプリンタでOHPフィルムに印刷します。パワポ全盛のいま、OHPフィルムは絶滅危惧種かもしれませんが、画材屋さんでTooのOHPクリアフィルムを入手しました。
 インクジェットプリンタには、キャノンのMP630を使いました。しかし困ったことに用紙設定でOHPフィルムが選べません。しかも、以前のPIXUS 860iと比較していまいち印刷ムラが多く美しくありません。いろいろと試行錯誤して、用紙の種類「Tシャツ転写紙」で濃度を最大としたところそれなりとなりました。印刷ムラはありますが、サンハヤトの露光テストチャートNZ-PT001 と比較すると、7番から8番くらいの透過度かなぁというところです。
 パターンフィルムの印字面は感光基板の感光面に向かいあわせになるようにしたいところですが、Tシャツ転写紙モードでは反転して印刷されてしまいます・・・。
 




パターンフィルム
OHPフィルムに印刷











 基板製作手順には、参考になることがいろいろ書かれていますね。パターンはサイドエッジ効果で細く痩せるので、パターンは太めに、間隔は少し狭くするとよいそうです。(例:パターン0.3mm、ギャップ0.3mmではパターン0.45mm、ギャップ0.15mmなどとする)このほか、チップ部品のランドは大きめにした方がはんだ付けがラクになるとのこと。


2.露光
 前述の通り、感光基板製作で一番重要なプロセスというか、失敗ポイントです。私の作業環境ではパターンが流れてしまった場合よりも露光不足で不要なパターンが残ってしまって失敗するケースが多かったです。必要な露光ができれば、それ以上の露光は必要ないのでサンハヤトのおすすめ露光時間というのは、当然必要最小限を指定いるはずです。従って、パターンフィルムの出来(遮光性)に問題がなければ指定時間より長めに露光しても構わないのでは、と感じています。

 今回使用した露光装置は、サンハヤトの ちびライトBOX-1 です。位置によって光量ムラが多いので最大サイズの基板を何も考えずに露光すると四隅が露光不足になります。改善品として ちびライト2 BOX-S1000 にモデルチェンジしていて、光量が多い中央部に特殊デフューザと称するプラスチック板のようなものが取り付けられています。何だかなぁ~!





ちびライト BOX-1 (おもて)
ちびライト2ではタイマーが
省略されました。必須なのにね。














ちびライト BOX-1 (うら)


画像を追加












露光不足の例
100×150mm、旧感光基板
中央部より周囲の光量が少ない
ので露光不足となった









 露光に際しては、感光基板とパターンフィルムをぴったり密着させなくてはなりません。ちびライトには簡単な露光クランプが付属していますが、私は古いバキュームクランプを使っています。観賞魚用のエアーポンプでクランプ内の空気を吸い出し基板とマスクフィルムが密着します。





バキュームクランプ
片面は薄いフィルムなのでいずれ
破けそうです















露光作業

















新しい感光基板は「クイックポジ感光基板」と言うだけあって、露光時間は短くなっています。露光時間の目安はサンハヤトのページに掲載されていて、露光装置の形式と感光基板の製造経過時間から露光時間を調べます。





ちびライト BOX-1
露光プロファイル
基板製作手順から抜粋














 このプロファイルによると、100×150mmの基板では基板の端の露光不足を補うため長めに露光することになっています。ただ、その場合基板中央部は露光過多になるため、現像時には注意しろと書かれています。(でも仮に不都合があったとしても現像時では手遅れだと思います。)

 クイックポジ感光基板を使うのは、初めてですので手始めにテストチャートを使って見ることにします。今回はちびライトで100×150mmの基板を製作しなくてはいけないので、基板の端に当たる部分と基板の中央部にあたる場所にテストチャートをセットして試験露光させてみました。
 現像結果には若干の差はありますが、問題はなさそうです。





試験露光・現像後
製造後2.5ヶ月の基板
露光時間220秒
(100×150mmサイズ専用
 プロファイルを適用)

上の基板:露光器中央部の場合
下の基板:露光器端部の場合












3.現像 まず現像液を作ります。現像剤DP-10をお湯に溶かします。現像液は何枚かの現像に使えるので保管も兼ねてホームセンターでポリエチレン容器を買ってきました。(手順書には、使用済みの現像液8時間以上経過したものは破棄しろとあります。やっぱダメですか。)使ううちに現像液は真っ黒になってきます。




ポリ容器
目盛りも付いていて便利
















 大きめの容器にお湯を入れ、温度計で確認しながら現像液を25~30度に調整します。現像液は弱アルカリ製で手に触れると荒れるのでゴム手袋をはめて作業します。下の写真は一度現像に使用したあとのもので黒っぽく変色しています。



現像液の準備
温度を温度計で確認











 露光済みの感光基板をドボンと浸け、容器ごと、あるいはピンセットや割り箸などで基板を揺すると30秒から1分ほどで不要なパターン部分の感光皮膜が溶けていきます。パターンが混み合ったところの現像が遅れる場合があるので、私はハケでなでながら作業を進めます。ピンセットはゴムカバー付きの市販品もあります。
 露光不足の場合、なかなか感光皮膜が溶けない場合があります。このとき、水洗いしながらゴム手袋の指の腹のところでゴシゴシこするとうまくとれてくれたことがありました。
 パターンが鮮明に現れ、現像が完了したら、それ以上現像が進まないよう、水洗いします。手順書によると、流水はダメとありますが、私のところでは流水が原因で失敗した経験はありません。

 基板を乾燥後、パターンの切れなど不都合がないか目視確認します。適宜、カッターやレジストペン(ペイントマーカなど)で修正します。





製作した基板を現像
パターンの色が薄い













4.エッチング
 エッチングには、サンハヤトの卓上エッチング装置ES-10を使っています。ES-10は観賞魚用のエアポンプが付属していて、ブクブクと空気を送り込み、迅速にエッチングができるというものです。

 エッチング液は、いちばんメジャーな塩化第二鉄を使っています。ES-10をマトモに使おうとすると1リットルも必要になります。サンハヤトの製品もよいのですが化学薬品のお店で購入すると比較的安いです。画材屋さんの銅版用のエッチング液でも使えるそうです。
 この紅茶色の液体は服に付着すると取れないので要注意。上蓋の開口部からエッチング液が周りに飛ぶので新聞紙で入念に養生します。エッチング液を注ぐ際には、プラスチック製の漏斗があると便利です。(使わないと非常にこぼしやすいです)
 
 観賞魚用のヒーターで加熱して、温度計で確認しながら液温を40度前後に調整しておきます。





エッチング装置ES-10















 ES-10によるエッチング作業は、基板端部に穴を開け、チタニウム線(エッチングで溶けない針金)で上蓋から吊して行うことになっています。ところが、泡の影響なのかこの穴の周りだけパターンがうまく溶けてくれません。そこで、基板の裏側にチタニウム線の先を曲げてガムテープで貼り付けて吊したところ、作業中に基板が脱落することもなくうまくエッチングできました。両面基板では、この手は使えませんが。





チタニウム線をガムテープで貼り付け













 エッチングは、10分程度で完了します。パターンの形状によっては早く進行するので、数分毎に基板を引き上げて進捗を確認します。エッチングが完了したら、基板からエッチング液を洗い流します。エッチング液が乾くとなかなか落ちないので汚れた機材も直ぐに洗いましょう。使用済みのエッチング液は銅が溶け込み有害なので、水道に流してはいけません。エッチング液そのものは何度も使えます。





エッチング後
まだ感光皮膜は残っています









 次に、余分な感光皮膜を除去します。スチールウールやクレンザーでこするとカンタンに取れますが、銅箔に細かなキズがついてしまいます。そこで、再度露光して現像液に浸ければ美しく仕上げることができます。


5.穴開け
 はっきり言って面倒な作業です。穴あけには手持ちのハンドドリルでも使えないことはないのですが、正確な穴あけが難しくボール盤が一番です。私はスペースの都合からプロクソン卓上ボール盤を選びました。パワーはありませんが、基板の加工なら申し分ありません。





穴開け作業
作業場所に困って廊下で作業
なんかマヌケな作業風景です












6.基板のカット
 今回は、複数の基板を1度に製作したので切り分けます。基板の切断にはPカッタが定番ですが、
ガラスエポキシ基板は固いので、すぐ刃先がダメになってしまいます。そこで便利ツールとして、ホーザンのPCBカッターを導入しました。高価なツールですが、パーツランド(旧ニノミヤ無線)のセールでついつい購入。でも全然使わないので買ったことを後悔していたところ、使い勝手がおそろしく便利で感激でした。





穴開け・カット後の基板













2009.10.4追記
製作した基板の写真を追加掲載

2009年9月24日木曜日

FMステレオチューナ: 電源(1)

 次は電源の検討です。いままで無線LANルータ付属のスイッチング電源タイプのDCアダプタを使ってきましたが、耳に付くノイズなど特に違和感を感じることはありません。ただオーディオの世界ではスイッチング電源は敬遠されているので、FMステレオチューナ基板本体についてはトランスを使ったドロッパ電源を試してみます。
 操作表示部については、消費電流の見積もりを見誤ったこともあり、スイッチング電源ユニットを併用します。


負荷の消費電流
 負荷としてはFMステレオチューナ基板本体と選局操作部があります。それぞれの消費電流の見込みは次の通りです。

 FMステレオチューナ基板本体
 ディジタルデザインテクノロジ誌の記事中に5Vで約450mAとされています。

 選局操作部
 電気喰いのパーツとしては...  Avagoの7セグLEDが最大105mA×5桁=525mA、  LITE-ONのドットマトリクスLEDが5行×7列×30mA×デューティ1/5=210mA
 その他のパーツの消費電流は圧倒的に少ないので無視すると、
 選局操作部の基板合計で735mAとなります。(電圧は5V)



回路図
 オーディオの世界ではディスクリートパーツによる電源回路が流行っているようですが、ここは簡単のために三端子レギュレータを採用します。





回路図
ドロッパ電源部とスイッチング電源部
ともにDC5V出力

2009年9月17日木曜日

FMステレオチューナ: プリアンプを外付けに

 現在頒布されている両面基板では改善されているそうですが、片面基板ではデジタル系のノイズの影響を受けて受信特性が劣化しているとのことで、基板内のプリアンプを外付けに変更することにしました。とりあえず基板のアートワークまで作成してみました。

 回路としては、雑誌掲載のものと基本的なところは同じですが、プリアンプ用のICを変更したので少し手を入れています。




プリアンプIC "ABA-52563"
Avago Technologies












 元記事では、Mini-CircuitsのERA-3が使われていましたが、入手しづらいのでDigi-Keyでも購入できるAvagoのABA-52563を選んでみました。なんと言っても価格(@97)がステキです。ERA-3と比較すると、ややスペック的に劣る項目があるものの実用上それほど差はないと思っています。ただ、パッケージがピンピッチ0.65mmのSOT-363なので基板を起こさないとはんだ付けがしんどいですね。





回路図
















プリント基板のアートワーク











 Minimal Board Editor(プリント基板エディタ)にパーツ登録をしていて気づいたのですが、FCZコイルのピンピッチは2.54mmピッチではないんですね。データシートによると07Sタイプで2.25mmピッチでした。

2009.9.22追記
高周波アンプICのABA-52563はERA-3と互換性がないので差し替えできません。



2009年9月11日金曜日

FMステレオチューナ: 操作表示部(2)

 選局操作部の基板には、スイッチやLED表示器などが盛りだくさんです。これらのスイッチの設定を読み込んでFPGAに送ったり、逆にFPGAからの情報を表示させるためマイコンが必要なので、手持ちのAVRで足がたくさん付いているATMEGA64-16AUを使うことにします。AVRはLEDチカチカしか試したことがないので、うまく使えるか不安ですが・・・。(個人的にはCPLDの方が開発手順がわかっているので敷居が低いように思えます)

 選局操作部の仕様 ・周波数設定: 76.0-90.0MHz(100kHzステップ)
 ・周波数メモリ: 16チャンネル程度、不揮発メモリに記憶
 ・選局方法: ロータリエンコーダによるマニュアル選局、         ダイレクトプリセットボタンによる直接指定
 ・受信信号強度: LED5段階表示 ・ステレオ受信表示LED ・A/DコンバータオーバフローLED表示


 そんなわけでBSch(シンプルでおすすめ!)で書いた回路図です。スイッチやLEDはプリント基板のアートワークの都合でAVRの適当なピンに繋いでいます。これから作るので動作は定かではないんですが、こんなやり方でうまく動くのかどうか・・・。

 注意したところとしては、AVRは5V電源で動いているので、3.3V系のFPGAに信号を送るところでは、74LCX244でレベルコンバートします。逆にFPGAの信号をAVRで受け取るところでは、AVR側のVIHスレスレだけどまあいいやということでそのまま接続します。

 プッシュスイッチにはチャタリング防止のためコンデンサを並列に抱かせています。これだと電源オフにするときの残留電荷でICに逆電圧がかかってしまう?かな。




回路図その1
















回路図その2
















プリント基板のアートワーク
片面基板で頑張ります

2009年9月9日水曜日

FMステレオチューナ: 操作表示部(1)

 FMステレオチューナの選局部分のスイッチ配置プランです。LEDの周波数表示を付けて、ダイレクト選局ボタンを付けてロータリエンコーダで選局も出来る。チャンネルメモリは、プッシュスイッチ付きのロータリエンコーダを使ってスイッチ長押しでメモリさせよう・・・等と夢は膨らむばかり。




選局機能の部品配置プラン










 これに従って、使用部品を選定していきます。周波数表示には、一度使ってみたかったアバゴのドット表示のLED表示器で、BCDデコーダ入りのやつを使ってみます。かなり高価なパーツですが、たま~にジャンクで売られています。データシートを見てて後から気づきましたが、消費電流が最大105mAとのこと、電流バカ喰いです。しまった、電源を少し見直さなくては・・・





AvagoのLED表示器









 このほかロータリエンコーダやドットマトリクスLED表示器、タクトスイッチをDigi-Keyで購入して、位置決めのため実際にユニバーサル基板上に並べてみます。このほうがCADでやるより直感的でわかりやすいです。
並べているうちに、スイッチを増やそうとかメモリチャンネル表示を2桁にしようとか欲が出てきました。





パーツを並べて配置を決める

2009年9月8日火曜日

FMステレオチューナ: ケースの選定

 以前製作したFMステレオチューナですが、基板剥き出しのまま使って早4ヶ月。ほこりをかぶったりしてだんだん見苦しくなってきました。そろそろケースに入れて完成させないとただのジャンク基板になりそうです。
 そういうわけでオーディオセットと並べても(それほど)見劣りしないようなケースを探してみました。参考にしたのはデジタルオーディオD/Aコンバータ基板で有名なお気楽オーディオキット資料館です。基板を使った作品写真を投稿する”写真館”があり、シンプルなモノから大作まで掲載されていて見ていると楽しくなってきます。
 私の場合、手持ちのアンプはベージュ色塗装になっているので、ベージュ系統の色に合わせておくのが無難かと思い、タカチのMSケース(MS66-21-23G)を買ってしまいました。このケースは、どうやら測定器のようなものを想定しているようで、果たしてオーディオセットに合うのかどうか・・・
けっこう高価なケースなので、祈るような気持ちです(?)




タカチのMSケース

タカチのカタログより

2009年9月2日水曜日

FMトランスミッタ: FM変調器(3)

(6)高域特性低下の影響

 「ゼロ次ホールド」で高域特性が低下するとき、ステレオコンポジット信号はメインチャンネルよりサブチャンネルのレベルが低下してしまい相互にレベル差が生じます。このため、周波数特性(平坦性)が悪くなる他にステレオセパレーション特性も悪化します。
 そのレベル差を確認するため、(5)で示した「ゼロ次ホールド」の周波数特性グラフに変調する音声信号の最高周波数(15kHz)をプロットしてみます。




ステレオコンポジット信号の周波数特性
192ksps、「ゼロ次ホールド」の場合








 ステレオコンポジット信号では最大53kHzまでの帯域を使用しています。(音声変調周波数15kHzの場合)音声のサンプリング周波数が192kHzのとき、53kHzは正規化周波数0.28(=53÷192)となります。sinc関数の式によると、振幅は0.88すなわち1.2dBの低下です。わずかな低下と思いきや、ステレオセパレーションへの影響は大きなものです。FMトランスミッタ: ステレオ変調器(2)のグラフによると、ステレオセパレーションは最良でも23dB程度まで低下してしまうことになります。

 このレベル低下を改善するには、取り扱う信号の周波数帯域がサンプリング周波数よりも十分に小さくなるようサンプリング周波数をずっと高くなるようにします。(エンファシスをかける等して補正する方法もあります)