2012年1月29日日曜日

中波受信用ループアンテナ その12(使用材料・大きさ・巻数と受信電力の関係)

ループアンテナの出力電力

受信アンテナの大きさや巻数の検討のため、ループアンテナの出力電力を計算してみます。マッチング回路の使用を前提に、ループアンテナの抵抗分のみに着目した等価回路は次の通りです。


アンテナの誘起電圧Voは、電界強度と実効高で計算できます。但し、アンテナ誘起電圧Vo [V]、電界強度E [V/m]、実効高h [m]、ループアンテナ面積A [㎡]、ループ巻数N [回]、。


負荷電力Pは、ループアンテナの巻数や形状で決まる比例定数を仮にk とおくと次の通りとなります。このkが大きいほど大きな受信電力を取り出すことができます。



ここで、円形断面の電線を使ったときの比例定数k は次の通りです。ただし、波長λ [m]、ループアンテナ直径D [㎡]、ループアンテナ巻数N [回]、電線の直径Dw [m]、抵抗率ρ[Ω・m]。


次に、平板導体の場合です。ただし、波長λ [m]、ループアンテナ直径D [㎡]、ループアンテナ巻数N [回]、平板導体の厚みt [m]、平板導体の幅W [m]、抵抗率ρ[Ω・m]。


上式により、ループアンテナの使用材料や大きさを変えたときの受信電力を簡易予測できます。例えば、太い電線で少ない巻き数とした場合と細い電線で巻き数を重ねる場合でどのような差が出るか判断できるので、機構設計で便利に使えるかと思っています。
(注)検算しましたが、考え方が合っているかどうか検証してませんので、ご注意ください。

※2012.2.12 数式を変形して掲載

2012年1月21日土曜日

中波受信用ループアンテナ その11(ケーブルの表皮効果)

先に試作したループアンテナでは、放射抵抗と比べ損失抵抗が大幅に大きいことから放射効率が著しく小さくなっていることがわかりました。中波受信用ループアンテナの損失抵抗は、ループエレメントの表皮効果の影響が大きいとのことで、表皮効果について考えます。


表皮効果
表皮効果は、導体に交流電流を流すとき、周波数が高くなるほど中心部には電流が流れにくく、導体表面に近いところに集中して電流が流れるようになる現象です。
導体の抵抗値は次式の通りですので、表皮効果により導体の実質的な断面積が減少すると、抵抗値が増加します。


但し、抵抗値R [Ω]、抵抗率ρ[Ω・m]、導体の長さL [m]、導体の断面積S [㎡]

また、導体を流れる電流密度は導体表面から深い位置ほど指数関数的に小さくなります。表皮効果によって表面電流の1/e(約0.37)となる深さdは次の通り。


但し、表皮深さd [m]、抵抗率ρ[Ω・m]、交流の角速度ω [rad/s]、導体の透磁率μ [H/m]

この表皮深さを計算してみました。この表によると、音声帯域はもちろん商用電源の周波数でも表皮効果の影響を受けますし、中波放送帯では0.1mm以下と導体表面にしか電流が流れていないことがわかります。


表皮効果は、電線の他にもシールドケースの設計でも考慮されるそうです。低い周波数で効果を持たせるには、表皮深さを考慮した厚いシールドケースが必要になるとのこと。また、高周波コネクタの銀メッキも表皮効果を軽減させる目的で抵抗率が低い銀を高周波電流が流れやすい導体表面に使うそうです。


表皮効果による抵抗値
久しぶりに積分の計算にチャレンジしてみましたが、変な結果が出て手も足もでませんでした。仕方ないので先人の簡易計算例を参考にしてみます。まずは円形断面の電線(D ≫ d(表皮深さ)のとき)の場合です。


但し、表皮効果による抵抗R [Ω]、電線の長さ l [m]、電線の直径Dw [m]、周波数f [Hz]、 導体の透磁率μ [H/m] 、抵抗率ρ[Ω・m]、波長λ [m]

次に、平板導体(t, W ≫ d(表皮深さ)のとき)の場合です。


但し、表皮効果による抵抗R [Ω]、平板導体の長さ l [m]、平板導体の厚みt [m]、平板導体の幅W [m]、周波数f [Hz]、 導体の透磁率μ [H/m] 、抵抗率ρ[Ω・m] 


計算例

(1)円形断面の電線
グラフにしてみました。導体外径が小さいところで500kHz~1MHzの抵抗値が直流抵抗より低くなっているのは、表皮深さと導体外径が近づき概略計算式の近似条件が満たせなくなったためと思われます。このような領域では、DCでの抵抗値に収斂していくはずです。




(注1)メーカーカタログ値
(注2)円形断面とみなしたときの計算。実際はより線なので正確ではありません。



(2)平板導体
高周波用機器で配線のために電線ではなく銅板を使う場合があります。また、短波受信用ループアンテナのエレメントとしてアルミ製フラットバーを使う例もありますので計算してみました。





参考資料

スタック電子 - 表皮効果(Skin Effect)
三度の飯とエレクトロン - 表皮効果
・山田吉英(2011) 小型アンテナの特性と設計に使う基本式 RFワールドNo.14, 18-21

2012年1月17日火曜日

中波受信用ループアンテナ その10(浮遊容量)

浮遊容量

4種類の線材で作ったループアンテナの自己共振周波数から浮遊容量を計算してみました。


まず、自己共振周波数はいずれも10MHz以上とAMラジオ受信用としては問題ありませんが、巻数を増やしたときには問題に直面しそうです。帯域内のインピーダンス変化をなだらかとするためには、(私の感覚としては)自己共振周波数は低くても4~5MHz以上にしたいところです。

インダクタンスと自己共振周波数の実測値から浮遊容量を計算することはできましたが、浮遊容量を正確に計算で求めるのは難しいそうです。このループアンテナでは、線材を密着させて2回巻いています。ループアンテナの形状から考えると、隣り合う線材間に発生する静電容量がいちばん影響を与えているような気がします。そこで線材間の間隔をあけて静電容量を減らせば結果的に浮遊容量も減るだろうと考えました。

線材間の静電容量ということで、平行2線ケーブルの静電容量の計算式をさがしてみたところWebで計算例がありました。

但し、2本の電線間の1mあたりの静電容量 C[F/m]、誘電率ε[F/m](真空中の誘電率は8.854×10^-12)、log e≒0.4343、電線の半径 r[m]、電線間の距離 d[m]

上式から、電線間の静電容量を計算したのが次の表です。電線間の静電容量と浮遊容量の関係はリニアではありませんが、傾向としては比例関係にあるので当たらずとも遠からずといったところでしょうか。なお、誘電率は真空中のものとしており比誘電率は考慮していません。


次に、電線間の距離を変えた場合の静電容量の変化をグラフ化してみます。
グラフ横軸の電線間隔は、電線の太さDで正規化したもので電線間隔=2は、電線間隔が電線太さの2倍を示しています。縦軸は静電容量で、電線間隔=2のときの静電容量で正規化しています。


グラフからは、電線を密着させた場合と比較して、少し離隔を取ってやるだけで大幅に電線間の静電容量を低減できることがわかります。また、今回のテストでは、比誘電率が大きいPVC被覆電線を密着して配置したことも浮遊容量増に影響を与えていたのではと推測しています。


参考資料

電気柵 - 電気柵の静電容量の計算と考察

2012年1月15日日曜日

中波受信用ループアンテナ その9(インダクタンス)

ループアンテナのインダクタンスについて調べてみました。インダクタンスが大きいと自己共振点が低くなったり、Qが高くなってアンテナとして使うときに不便になりそうです。


インダクタンス(長岡係数)

ループアンテナは空芯ソレノイドコイルそのものなので次式で計算できます。

但し、インダクタンスL [H]、長岡係数K、透磁率μ=4π×10^-7[H/m]、ループアンテナの断面積A [㎡]、ループアンテナの厚み l [m]、ループアンテナの巻数N [回]

長岡係数は、あらかじめ用意された係数表を参照する場合が多いようですが、ループアンテナはソレノイドコイルとしては短い(厚みが薄い)ため探した範囲では係数表の掲載範囲外になっていました。長岡係数を算出するには、完全楕円積分という特殊な数式を使わなくてはならないのですが、なんとこれを計算してくれるWebページもあります。

ke!san - 長岡係数の計算 ・・・ 長岡係数を高精度に計算 ※L=コイル長さ=ループアンテナの厚み
IN3OTD's web siteSingle-layer Coil Inductance and Q ・・・ インダクタンスを計算してくれます



インダクタンス実測


4種類の線材でループアンテナを作ってみました。

(1) 600V IV ビニル絶縁電線 単線 導体径1.6mm
(2) 600V IV ビニル絶縁電線(いわゆるアース線) より線 公称断面積2m㎡
(3) カナレ電気 75Ωカラー同軸ケーブルL-3C2VS ※外皮(外部導体)のみを使用
(4) マスプロ BS用低損失75Ω同軸ケーブルS5CFV ※外皮(外部導体)のみを使用





インダクタンスの実測値は計算値より10%弱小さめとなりました。計算式を見ても明らかですが、インダクタンスは直径と厚み(長さ)で決まり、使用する線材の太さには影響を受けないのは意外でした。

2012年1月9日月曜日

ループアンテナ実験材料を購入ほか

日本橋で買い物
実験用の材料を買い出しに行きました。IV線は、より線2SQと単線1.6mmの2種類。表皮効果の比較用です。平編錫メッキ銅線は買ったけど使わないなぁ。失敗。
あとは、使うかもということでバーアンテナ、トロイダルコア、ラグ板、パワーインダクタをデジットで購入。



カウンターシンク
バリ取りには、ホーザンK-35 バリ取りナイフを使っています。この製品についてはいろいろ言いたいこともありますが、それは置いておいて、小さな穴、例えば3ミリ程度には穴が小さすぎて使えません。そこで小さな穴でも使える工具はないかと日本橋の工具屋さんで相談したところ、カウンターシンクを紹介されました。リンク1リンク2(カウンターシンクで検索)お店には在庫がなかったのでネット通販で買いますか。


八神純子さん
この記事を書きながら何気なく耳にした美しい曲は、八神純子さん。冒頭の古くさ~い雰囲気から一転、ボーカルがスタートする頃にはやや現代的な明るい調子に変わります。曲は、本人が16歳のときに作詞作曲したということで驚き。しかも1月25日には15年ぶりのアルバム VREATHをリリースするとのこと。NHKラジオでかかった曲名は、Webに随時アップされていることに気付き、曲名を知ることができました。

2012年1月7日土曜日

中波受信用ループアンテナ その8(ループアンテナの自己共振点)

ループ直径や巻き数を増やせば受信電圧が上がる

ループアンテナ誘起電圧Vは、ループアンテナ面積A [㎡]、ループ巻数N [回]に比例します。ループアンテナが直径D[m]の円形であれば、受信電圧は直径Dの2乗、ループ巻数に比例します。


受信電力ついての前回の試算でわかるとおり、微小ループアンテナの放射抵抗Rrが損失抵抗Rlossとくらべ著しく小さいため、実際に取り出すことができる電力が低くなっていました。
これを改善するには、放射抵抗Rrに対する損失抵抗Rlossの比率を減少させる必要があります。
ところで放射効率ηの式を変形させると同じことを示していることがわかります。放射効率ηをあげるには、Rloss/Rrを小さくします。


損失抵抗Rlossは、銅損(配線の直流抵抗や半田付け)、誘電体損(プリント基板を使うアンテナなど)、表皮効果等とのことで、中波受信用のループアンテナでは表皮効果が大きなウェイトを占めていそうです。表皮効果による抵抗はループアンテナエレメントの長さに比例します。
放射効率ηは、ループアンテナ直径Dの3乗、ループ巻数Nに比例します。(ただしRloss ≫ Rrのとき)


上記より、巻き数Nよりループアンテナ直径Dを大きくするのが効果的ということがわかります。


ループアンテナ巻数の制限
ループアンテナ直径Dを拡大すれば急激に性能アップするとわかっていても、設置場所の制限から現実的には難しいので代わりに巻き数Nを増やすことを考えます。
巻き数を重ねればいくらでも性能が上がりそうですが、RFワールド誌の記事によれば、ループ長が0.05波長以上になると電流に高次モードが発生し、ループ長がさらに大きくなると高次モードの量が大きくなりインピーダンスが急に大きくなるそうです。図示されたグラフを見ると、せいぜい0.06波長程度までに押さえておくのが無難そうに感じました。
この点だけに着目すると、0.06波長はAMラジオ帯域の上限1,602kHzで11m、下限531kHzで34mです。例えば直径50センチの円形ループアンテナの巻き数ではそれぞれ7回と22回になります。

1本のアンテナでAMラジオ帯域のすべてをカバーしようとすると、受信電圧を犠牲にして巻き数を減らすかタップ分けする必要がありそうです。

もうひとつ、アンテナの巻き数を増やせない要因としてアンテナの自己共振があります。アンテナとして使うためには、自己共振点より低い周波数で使用します。
同軸ケーブルを使ったシールドループアンテナの自己共振点は、リアクタンス成分と同軸ケーブルがもつ静電容量との並列共振で決まります。同軸ケーブルの静電容量は75Ωで67pF/m、50Ωで100pF/mと特性インピーダンスが同じなら、同軸の太さによって変わりません。

今回のループアンテナは75Ω同軸ケーブルを使いましたので静電容量は次の通り。
4回巻: 0.5m×π×4回×67pF/m=421pF
2回巻: 0.5m×π×2回×67pF/m=210pF
1回巻: 0.5m×π×1回×67pF/m=105pF

次に、測定した自己共振周波数からインダクタンスを逆算します。
4回巻: 自己共振周波数 1.55MHz → 25uH
2回巻: 自己共振周波数 4.2 MHz →  6.8uH
1回巻: 自己共振周波数 10 MHz →  2.4uH

これらはリアクタンス実測値によく一致しています。(同軸ケーブルの静電容量は分布定数的なんですが集中定数的に取り扱っても良いんですかね?)
この実測値によると、中波受信に75Ω同軸ケーブルを使ってシールド形マグネチック・ループアンテナを作る場合には、自己共振点の都合からせいぜい直径50センチでは2, 3回しか巻くことができないことがわかりました。


参考資料
・山田吉英(2011) 小型アンテナの特性と設計に使う基本式 RFワールドNo.14, 18-21
フジクラ - 同軸ケーブル

2012年1月4日水曜日

中波受信用ループアンテナ その7(ループアンテナの端子電圧を検証)

前回の検討で、当地のラジオ第一放送594kHzの予測電界強度は 39.5 [mV/m] (92dBμV/m)ということがわかりました。次に、自作ループアンテナの期待される受信電圧と実測値と比較してみることにします。

理想ループアンテナの受信電圧

ループアンテナの実効高は、計算で求められます。

直径0.5m 2回巻ループアンテナを594kHzで使用するときの実効高は0.0049m(-46.2dB)。電界強度 39.5 [mV/m](92dBμV/m)でループアンテナに誘起される電圧は、39.5×0.0049 = 0.19mVとなります。また、放射抵抗の計算値は7.4×10^-8 Ω(0.074マイクロΩ)でした。

ループアンテナに受信機を接続するときの等価回路は次の通りです。アンテナで受信した電力を最大限受信機まで伝送するには、R1 = R2 (= 0.074マイクロΩ)とします。受信機端での受信電力は、(0.19mV/2)^2 ÷ (7.4×10^-8 Ω) = 0.12W と意外に大きなものになります。これをトランス等で無損失で50Ωに変換できたとしたら、2.5V (+20.9dBm) となります。



自作ループアンテナの受信電圧

次に自作ループアンテナの受信電圧を検証してみます。直径50センチ 2回巻きのループアンテナを594kHzで使用するときの等価回路は次の通りです。



ループアンテナの出力抵抗のうち、リアクタンス成分はマッチング回路でキャンセルされるため抵抗成分のみに着目すると、ループアンテナからマッチング回路側を見ると、約0.6Ωに見えます。
ループアンテナの誘起電圧0.19mVは、ループアンテナ出力部でアンテナ放射抵抗、アンテナ損失抵抗、負荷抵抗(トランスで約0.6Ωに変換されて見える)で分圧されて0.095mVとなります。次にマッチング回路で9倍に昇圧されますが、マッチング回路素子での損失を2dB(80%)と見込むと、受信機入力では0.68mV (56.7dBμ)となります。

ところで受信端子電圧の実測値は、ループアンテナを垂直に設置したとき49.7dBμ、水平に設置したときに52dBμでした。受信端子電圧を測定したのは昼間12時ですので、送信所から到来する電波は垂直偏波の地表波のはずですからループアンテナを垂直設置するのが正規の受信方法になると考えられます。
この例では水平設置のほうが垂直設置より受信電圧が高くなっています。この理由は、推測の域を出ませんがアンテナ設置場所の都合もありコンクリート造の手すりの鉄筋からの再輻射波の影響を受けてしまっていたのでは考えています。

また、計算値より実測値の受信端子電圧が7dB低いのは、計算条件と実際の差異・地域的な条件、アンテナ周囲状況および設置条件等により受信電界強度が低かったためと考えています。



まとめ

著しく性能が低いように思えた自作ループアンテナですが、机上での試算結果と実測値がかけ離れていることはなく、必然であったということがわかりました。また、アンテナ損失抵抗の影響でアンテナ受信電力が著しく下がっていることを確認できました。

2012年1月2日月曜日

中波受信用ループアンテナ その6(AMラジオ放送の受信電界強度を予測)

ぱっとしない性能のループアンテナの横では、小型ラジオがクリアな音楽を奏でています。小型ラジオは、小さなバーアンテナを内蔵していますが、これだってれっきとしたループアンテナのはずです。
仕組みが同じなのに、大きくて性能がよいはずの私の自作ループアンテナの性能がもうひとつなのは何か間違いを抱えているせいなのではと勘ぐってしまいたくもなります。

アンテナの性能を示す評価基準のひとつに、アンテナの利得(ゲイン)があります。電界強度が同じであれば、利得が高いほど大きな受信電力を取り出すことができます。ループアンテナの特長の一つとして、利得(ループアンテナでは実効高を評価)を計算で導くことができるという点があります。
この特長を利用して、期待される受信電力と実際の受信電力を比較して自作ループアンテナがどれだけ不出来なのかを調べてみたいと思います。

前回、スペアナで受信電力を測定しましたが、肝心の電界強度は測定器がなくわかりません。電界強度は、周辺状況により大きく変わるので専用測定器を使わなくては実際のところはわかりません。しかし、それでは始まりませんので概算値を求めてみることにしました。


電界強度の予測

電界強度の計算には送信アンテナの利得などの詳細を知る必要がありますが、便利なことに電波法に計算方法の規定があります。

無線局免許手続規則第七条第二項の規定に基づく放送区域等を計算による電界強度に基づいて定める場合における当該電界強度の算出の方法(昭和35年8月9日 郵政省告示第640号)によると、標準放送(AMラジオ放送のこと)の計算は次のように行います。

まず、「電界強度の計算は、地上波についてのみ行なう」ことになっており、電離層反射波の影響を受ける夜間は当てはまりません。
(注)AMラジオ放送(中波)の電波の伝わり方には大別して2種類あり、昼間は送信所から発射された電波は地表に沿って伝わる(地表波;地上波)だけですが、夜間になると地表波に加えて上空の電離層によって反射されるようになるため遠方まで届きます。

電波の伝搬路が均一路(大地定数が全伝搬路を通じ一定である伝搬をいう)の場合の電界強度は、次式により算出する。


ただし、受信点電界強度 E [mV/m]、空中線電力Ptが1kWのときの均一路の大地定数に対する電界強度 E0 [mV/m]、有効輻射電力 Pe、空中線見かけ効率 Gη、空中線指向性係数 Dθ。


伝搬路の大地の導電率および比誘電率


空中線電力ごとの空中線見かけ効率の指定値


電界強度の予測例

告示では、上記のパラメータを使い伝搬路の大地の導電率や比誘電率の異なる山岳地帯、丘陵地帯、平野地帯、海上地帯ごとに距離による電界強度グラフを示し、受信点での電界強度を読み取るようになっています。グラフそのものは、リンク先にて確認願います。

さて、当地での計算例を示します。
計算対象は、NHKラジオ第一放送(594kHz)です。当地は埼玉県久喜市の送信所から約50km離れており、送信所までの地形は平野ということにします。(厳密にはおそらく違いますが、概算ですので)

計算条件
・周波数: 594kHz
・送信出力Pt: 300kW(NHK Webページ)
・空中線見かけ効率Gη: 130%(表より)
・空中線指向性係数 Dθ: 1(無指向性と仮定)
・伝搬路の区別: 平野地帯
・送信所までの距離; 50km

ここで告示640号の別表第3図(平野地帯;σ=5, εr=15)のグラフから50kmでの電界強度を求めます。上下の2グループのグラフが描かれていますが、上が距離0.2~20km。下がその100倍の20km~となっています。このグラフから距離50km、周波数594kHzのとき、電界強度は2mV/mであることが読み取れます。

最初に出てきた式にあてはめると、グラフから読み取った電界強度は、空中線電力1kW、空中線見かけ効率100%の場合ですから、まさに電界強度 E0 [mV/m]そのものです。なので空中線電力1kW、空中線見かけ効率100%に対するPeの差分がわかれば電界強度を求められます。

従って、空中線電力1kWに対するPeの差分は、見かけ効率130%×指向性係数1×送信出力300 = 390 より、電界強度 E は2 [mV/m] ×√390 = 39.5 [mV/m] (92dBμV/m)


建物近くでの減衰

上記の予測では、建物の影響を無視しています。イメージ的には、建物がない田んぼや平原がぴったりかもしれません。AMラジオの波長は長いので電波伝搬路の途中に少々の建物があってもマクロに考えれば無視できるのかもしれませんが、それでも近隣に鉄筋コンクリート造のあれば少なからず影響を受けていそうです。
当家の例では、ホイップアンテナをベランダ手すりから30cmほど突き出して取り付けていますが、取り付け位置を左右に3mほどずらしただけで受信に数dBの差が出ました。また建物の中では著しく受信が難しくなることから、(1)自分の建物に近接することによる損失、(2)ベランダが送信所に対面していない回折損、(3)近隣の建物の影響による遮へい損、などなどによって予測値(理論値)よりさらに減衰しているはずです。その減衰量としては、10dBというと大きい感じがしますので根拠なしの感覚値6dBと予想しています。


参考資料