2009年8月29日土曜日

137MHz~4400MHz格安シンセサイザモジュール

 組み込みネットを見ていたら、『簡易信号発生器として使えるPLLシンセサイザモジュール”ぴるる”』の記事を見かけました。液晶ディスプレイ付きで13,650円。(9月末までの特別価格)基本波の出力周波数は2200~4400MHzとあります。価格が安いので単位はキロヘルツの間違いやろ?と思いきや、Analog DevicesのVCO内蔵PLL ICを使うことで実現しているとのこと。
 製造元の電子研のWebページによると、不具合が見つかり受注見合わせになっていますが、31日より受注再開される模様です。そんなに高い周波数は縁が薄いですが、価格が出頃なので1台手元に欲しくなります。

 ところでこのモジュールで採用されているAnalog DevicesのADF4350は、2200-4400MHzのVCOを内蔵したPLL ICで、この周波数帯を3つのVCOで16バンドに分割してカバー。共振回路まで内蔵されているので、外付けの共振回路で苦労することはなさそうです。これなら再現性よくギガヘルツの工作ができる・・・のかな。





VCO内蔵のPLL IC "ADF4350"










 用途としては、クロックジェネレータだけではなく無線LANやWiMAXといった無線アプリケーションにも使えると書いてあります。データシートの位相雑音特性図によると、2.2GHzを分周した1.1GHzの20kHz離れで-100dBm/Hzそこそこです。ローコストのSGで同様なスペックを謳うものもあるわけですから、それをワンチップで実現できることは素晴らしいと思います。(変調機能はありませんが)




位相雑音特性例
データシートより

2009年8月28日金曜日

ディジタルFMステレオチューナ基板が頒布開始

 ディジタル・デザイン・テクノロジ誌に掲載されていた、ディジタルFMステレオチューナの製作記事で予告されていた専用基板の頒布が開始されるとのことです。(お知らせ頂いたsim様、ありがとうございます)

 頒布される基板は、両面基板でA/Dコンバータの違いにより2種類が用意されています。
1つはMaximのMAX12554を使用するもの、もうひとつはNational SemiconductorのADC14C080を使うものです。ADC14C080は、チップワンストップDigi-Keyでも扱っています。(えらく価格差ありますね)
 MAX12554はメーカから直接入手するしかルートがなかったことを考えると、部品集めの敷居が少し下がった感じでしょうか。

当Blogでも製作記事を書いています。よろしければご覧ください。

2009年8月21日金曜日

おじさん工房: 汎用実験基板 APB-1(2)

電子工作の成果物は、ケースに入れて初めて完成と言えるのではないでしょうか。経験上、作った基板も剥き出しのままでは、それなりの扱いとなってしまい結局のところジャンク箱入りしているような気がしますが、箱入りのモノはちゃんと残っています。

というわけでAPB-1をデスクトップで気軽に使える測定器とするため、そして高周波信号を扱うので、ケースに入れることにします。
APB-1の開発者の方は、ケースまで自作されているようですが、ちょっとそれは敷居が高いと思い、市販品から基板のサイズに合うものを探してみました。
見栄えのよいケースというと、タカチが幅広い品揃えで一般向けにも入手しやすくいろいろ選べます。今回は、その中から少々価格高めですが、見た目に惹かれてアルミモバイルケースMXA4-13-9Sをマルツパーツで購入しました。(タカチのYM-130にも入りそうです)






タカチのアルミモバイルケース MXA

出典:タカチ電機工業カタログ













当方、ケースの穴あけや加工など機械工作は苦手です。いままでは取り付ける基板をケースにあてがって穴をあける位置にマークを付けて穴あけするなどといった経験はありますが、どういうわけだかマーキング位置が微妙にずれたりして不格好になった場合多数です。

そこで今回は、ケースに納める基板の部品や穴位置を測り、まじめに加工図のようなものを作成してみることにします。(まじめにといっても、測り方は適当ですが)





基板のサイズを測定





















次に、ケースの加工図面(なんちゃってですが)を作成します。最初は定規を使っていたんですが、途中疲れてきて適当なフリーハンドになっています。一回限りの図面ならこれでいいですね。
こういうものを書いていると、製図をまじめに勉強しておけば良かった、と後悔しきりです。





ケースの加工図面



























加工前のケース

















次に、ケースに墨出ししておき、ドリルの穴あけ位置にセンタポンチでマークを付けます。
ドリルでの穴あけにはボール盤があると便利ですが、かわりにハンドドリルとホームセンターで3000円くらいで売られているドリル台を使いました。
今回のケースのパネルはアルミ製ですが、3ミリと厚めです。そこで、新たにホールソーとステップドリルを導入しました。いままでのテーパリーマの加工と比較するとそれはラクチンで感動です。

加工に際しては、操作面(目に触れる面)によけいな傷を付けないよう、保護シートを貼っておきます。厚手のビニル製があればいいなとホームセンターで探してみたのですが、イメージ通りのものが見あたらず代わりに”貼ってはがせる”プリンタラベルシールを使いしました。





ケースに収納















そんなわけで収納時の写真ですが、ぱっと見まともに見えますが、実態は位置のずれがあったり穴の大きさを少し間違えていたり、もうひとつの出来映えです。少しキズも入ってしまったし、文字入れを兼ねてプリンタラベル用紙を貼り付けてごまかすことにするつもりです。




ケース内部

















基板にシールド板を取り付け
全体的なノイズは減ったものの、無関係のスプリアスのレベルがが増えてしまいました。アース方法の見直し必至ですね。
















2009年8月15日土曜日

おじさん工房: 汎用実験基板 APB-1

 「おじさん工房」で頒布されていた、汎用実験基板を作ってみました。
 XilinxのFPGA Spartan3E-250にA/D, D/AコンバータとUSBインターフェースが付いていて、付属のソフトと組み合わせ30MHzまでのスペクトラムアナライザ、ベクトルネットワークアナライザ、ロジアナ、信号発生器、ラジオ受信機として動作させることができるという意欲作です。

 主要パーツセットのつもりで申し込んだところ届いたのはフルパーツセットでした。部品数も多く、このキットの制作者の人は大変だなぁ、そうなことを考えてしまいました。




届いたパーツセット
ひとつひとつの部品がキレイに袋に入れられています。















プリント基板(表)

電源周りの配線方法が参考になります















プリント基板(裏)

















部品実装後(表)
写真を見てフラックスの拭き忘れに気がつきました。

















 実は、製作時に0.5mmピッチのARMの半田付けに失敗しました。まさかプラスチックパッケージのバリの裏側ではんだブリッジしているとは・・・
 左上のコイル周りのシールドは、まだ付けていません。付けないとノイズを拾いやすくなるようです。




部品実装後(裏)

チップ集合抵抗のはんだ付けも苦手
でも電極が凹型は凸型よりハンダ付けしやすいことに気がつきました


















スペアナモード
FMトランスミッタ出力(0dBm)を測定

SPAN 10MHz
RBW 3kHz














スペアナモード
FMトランスミッタ出力(0dBm)を測定

SPAN 50kHz
RBW 200Hz

左右のパイロット信号レベルは、中央のキャリアから14dBダウンのはずです。この画面の結果も妥当に見えます。












スペアナモード
FMトランスミッタ出力(0dBm)を測定

SPAN 1kHz
RBW 12Hz

電源ノイズ60Hzが見えます。
FMトランスミッタには秋月電子の小型DCアダプタを使ってます。そのノイズが乗っているようです。





 この実験基板には、他にも多くの機能を持っています。一番の目当ては、ベクトルネットワークアナライザ機能だったのですが、スペアナも思いのほか使えています。USBバスパワーで動くし、凄いキットだと思います。このようなものを頒布してくださった「おじさん工房」さんに感謝です。

2009年8月12日水曜日

FMトランスミッタ: FM変調器(2)

(3)DDS(Direct Digital Synthesizer)
 DDSのブロック図を示します。DDSの内部では基準クロック毎に所定の周波数のサイン波形の振幅を計算してD/Aコンバータに出力します。原理はAnalog Devices社のDDSチップのデータシート(例えばAD9851など)に詳しく解説されているのでそちらを見てください。



DDSのブロック図








 DDS出力の周波数は、次式で決まります。但し、Nは位相アキュムレータのビット数です。






 今回はDDSを使ってFM変調をかけます。変調したい音声をA/Dコンバータでデジタル化し、DDSに接続すればFM変調をかけることができますが、特性よく変調をかけるには両者のサンプルレートを合わせる必要があります。


(4)音声のスペクトラム
 音声波形をA/Dコンバータでデジタル化する場合を考えてみます。



音声信号のサンプリングイメージ









 上の図では音声(正弦波)をサンプリングしてパルス列に変換する様子を示しています。デジタル信号処理の教科書に登場してくるパルス列は、パルス幅が無限小の信号です。
 次に、アナログの音声信号とサンプリングされたデジタル信号のスペクトラムを示します。




アナログ音声信号のスペクトラム
上の例では正弦波なので単一スペクトラムとなる












デジタル音声信号のスペクトラム
基本波(赤色)の他にエイリアス(青色)がずらりと並ぶ








 上の例で音声は正弦波なので単一のスペクトラムですが、サンプリングするとサンプリング周波数の整数倍の周波数の前後に基本波(赤色)のイメージ成分(青色)が出現します。
 こんなスペクトラムの信号をFM変調器に接続したら、中心キャリアの周りに基本波のイメージ成分に対応したたくさんスペクトラムがずらりと並ぶことになります。これらの信号は当然帯域外にもまたがりますのでスプリアスになってしまいます。そのため、変調に不要な信号成分は、DDSに接続する信号からあらかじめ取り除いておく必要があります。この処理はサンプルレート変換の過程で行うのが一般的です。

(5)ゼロ次ホールド
 今回製作したFMトランスミッタの音声サンプルレートは192kHz。そしてDDSの基準クロック(サンプルレート)は49.152MHzと両者の間は256倍も開きがあります。一番簡単なサンプルレートの変換方法は、「そのまま繋ぐ」ことです。DDSから見ると、256サンプル毎に周波数設定が階段状に変化しているようになります。これはゼロ次ホールドと呼び、ちょうどD/Aコンバータの出力波形もこのような形になっています。




ゼロ次ホールド波形(青い波形)









 上の図では、赤いが音声波形のサンプリング点で、次のサンプリング点まで同じレベルを(DDSの基準クロックで256回)ホールドしておいてDDSに渡します。(青い波形)

 ところで、この「ゼロ次ホールド」信号のスペクトラムはどのようなものになるでしょうか。(4)で示した音声信号のサンプリング波形と同様に、サンプリング周波数の整数倍の周波数の前後に基本波(赤色)のイメージ成分(青色)が出現するところまでは同じですが、振幅特性に変化があります。(4)の信号では、幅が無限小のパルスであったのに対し、「ゼロ次ホールド」は階段状の波形です。このためデジタル信号処理ではデジタル信号と矩形波の畳み込みとして扱われ、その周波数特性はsinc関数(シンク関数)で表されます。



sinc関数
但し、xはサンプリング周波数で正規化した周波数








「ゼロ次ホールド」の周波数特性
sinc関数(緑のライン)のエンベロープに沿って基本波もイメージ成分もレベルが低下する

2009年8月10日月曜日

FMトランスミッタ: 位相雑音(2)

 位相雑音多めのDCMを使わず、クリスタルオシレータの出力を直接マスタクロックとして使用するよう変更してみました。確かにノイズは減ったみたい・・・ですが、評価に使っている受信機(DDT誌ディジタルFMステレオチューナ)のRF同調を取っていないのでスプリアスを拾ってグジュグジュ音が出てどれだけ下がったかはよくわからない感じ。

 とりあえず位相雑音を見てみます。便宜上、中心周波数は9.8MHzになってます。
10kHz離れでだいたい-105dBc/Hzくらい。
少しは良くなった・・・でもよく見ると、帯域内だけスペクトラムが盛り上がっています。



FMトランスミッタのスペクトラム
両側の信号は19kHzパイロット信号

SPAN 50kHz















次にパイロット信号を停止させてみます。
手をかざすとレベルが変化するし、この盛り上がりの正体はアナログ系(A/Dコンバータ)のノイズです。
A/Dコンバータは192kspsで動作していますが、15kHzのローパスフィルタを入れているのでノイズの形もそのようになってます。このノイズ、全体のノイズが減ると、相対的に浮かび上がってきてよく目立ちます。要はアナログ系の実装がマズいのが原因ですね。片面基板でA/Dコンバータの基板設計も初めてなので改善方法がわかりません。片面でなんとかできる方法ってあるんでしょうか。




FMトランスミッタのスペクトラム
19kHzパイロット信号オフ

SPAN 50kHz














それならA/Dコンバータを接続しなかったら、信号発生部の実力がわかる?ということで試してみます。そんな変更もマウスとキーボードを叩くだけでできるのはありがたいことです。



FMトランスミッタのスペクトラム
19kHzパイロット信号オフ
A/Dコンバータを取り外し

SPAN 100kHz














 信号発生器としての素の実力というか、A/Dコンバータの信号をカットすると位相雑音は10kHz離れでスペクトラムアナライザの読みで-130dBm/Hzほど。これなら文句なしと言いたいところ、帯域外に目を向けるとスプリアスがいっぱいいます。



FMトランスミッタのスペクトラム
帯域外に-60dBcのスプリアス

SPAN 10MHz

2009年8月8日土曜日

FMトランスミッタ: 位相雑音

1.位相雑音

どうもノイズが多い。

製作したFMトランスミッタの音を聞いたときの印象です。
どこか処理にまずいところがあるからだろうといった想像をしていましたが、師匠からFPGAのDCM(Digital Clock Management; Xilinx社製FPGAに内蔵されていて、外部クロックから任意の周波数を作り出せるめちゃ便利な機能)の位相雑音のせいではないか?との指摘があり、確かにそれが原因である可能性が濃厚だと思っています。目的外使用というかアナログ変調品質が重視されるアプリケーションに使ってしまったのはまずかったですね。

 位相雑音はスペクトラムアナライザで簡易的に測定(参考リンク;素晴らしいページです)できるわけですが、DCMのパラメータ(てい倍とか分周とか)によりだいぶ変わります。製作中のFMトランスミッタでは、12.288MHzのクリスタルオシレータをクロック源として、DCMで19倍と3分周して77.824MHzを生成しています。このクロックを元にDDSで10.7MHzのFM変調波を生成しています。

 まずは、12.288MHzのクリスタルオシレータをDDSに直接接続して1/4の周波数(3.072MHz)を生成したものと、クリスタルオシレータにDCM(2てい倍と2分周;入力と同じ12.288MHz)を経由してDDSにより同じ1/4の周波数を生成して比較してみました。(位相雑音の値はキャリアから10kHz離れの値)

  • 12.288MHzクリスタルオシレータ : -128dBc/Hz
  • 12.288MHzクリスタルオシレータ+DCM: -116dBc/Hz

結果は、DCMを使用した方が12dBほどノイズが高いように見えます。ただし、測定に使用したスペクトラムアナライザそのものも位相雑音を持っていますから正確ではありませんが、傾向としては正しいはずです。次に肝心なFMトランスミッタ(10.7MHz)の位相雑音を測ってみます。

  • FMトランスミッタの位相雑音 : -97dBc/Hz
ずいぶん悪いです。DDSでの分周数が半端な値なので、位相誤差が増えていることも一因かも知れません。
 ついでにDCMのパラメータをいろいろと変えて測定したものをグラフにプロットしてみました。すべてクロック源は12.288MHzのクリスタルオシレータです。





位相雑音の比較









 一番下のがクリスタルオシレータ(からDDSで生成した信号)で、一番上のがトランスミッタです。その他のMなんとかDなんとかと書いてあるところはDCMで、Mに続く数字がてい倍数、Dに続く数字が分周数を示しています。いい加減に測定したのでばらつきがありますが、同じ周波数を生成する場合でも、19てい倍、3分周のように周波数関係が複雑な方が位相雑音が高いことがわかります。
 FMトランスミッタのクロックは、このDCMで「19てい倍、3分周」したものですが、それよりもFMトランスミッタ出力のほうが10dBほどさらに悪いです。ちょっと悪すぎる気がしないでもありません。

 一方、雑音が低い方では-125dBc/Hz以下でグラフがカーブを描いています。これは測定に使用したスペクトラムアナライザそのものがもつ位相雑音の影響ではないかと想定しています。でもスペクトラムアナライザの位相雑音というのは、こんなに低いんですかね?もっと悪いと思っていました。

 いずれにせよ、DCMを使うと使わない場合より位相雑音特性が不利になることがわかりました。さらに位相雑音が大きいとFM復調したときに、そのまま音声出力に出てきてS/N劣化という形で影響がでます。そういうわけでDCMを使わないよう設計変更をすることにしました。

 クリスタルオシレータとしては、デジタルオーディオで使われる48kHzの整数倍関係で、なるべく高い周波数のものということで49.152MHzを選定しました。Connor-Winfield社のSMDタイプのものがDigi-Keyで300円ほどで入手できます。このデータシートには位相雑音の規定があり10kHz離れで-140dBc/Hzということで、これを使うとどんなものができるのかと期待しています。