2010年5月28日金曜日

ヘッドホンアンプ: 電子ボリュームPGA2311の変化特性カーブ

電子ボリュームの利得・可変範囲など

予備検討の結果を列挙してみます
  • 手持ちのヘッドホン(ソニーMDR-CD900)を妥当な音量で鳴らせるレベルは0.2Vrms
  • このとき、電子ボリュームの利得は -8dB  (下記ブロック図より、0.2V/0.5V)
  • このときのボリューム位置は、10時付近の方向にする
  • 10時付近とは、ボリュームの全回転角度300度のうち、30%つまみを回転させた位置
  • ボリューム最大としたときの利得は、22dB高くする
また、 利得可変範囲は業務用アッテネータ(東京光音電波)の製品仕様を参考にすると、60dB以上あれば申し分ないようです。

これらの内容をまとめると、電子ボリュームの必要要件は次の通りです。

全回転角度の30%の位置で、利得 -8dB
最大利得 +14dB
最大・最小利得の差は60dB以上


電子ボリューム近辺のブロック図




利得変化特性カーブ
カーブは対数カーブとしました。ボリュームのAカーブと同じだと思いますが、はじめはどのような関数なのかわからず、画像処理で使われるガンマ補正の関数を使うなど試行錯誤しました。特にボリュームを絞り込んだときの変化が急峻で違和感があったので考え込んでいたところ、東京光音電波のデータシートに『logカーブの減衰特性』と書いてあるのを見てようやく気付きました。



電子ボリュームの利得変化特性カーブ



Excelで係数を検討





ボリュームつまみの量子化ビット数
アナログライクな操作性にするため、ボリュームの出力電圧をA/D変換し、所定の特性カーブを書き込んだルックアップテーブルを参照して電子ボリュームに係数を与えます。ルックアップテーブルの深さは8ビットにしました。7ビットでもOKですが、ボリュームをかなり絞り込んだときにわずかに音量が段階的に変化するのがわかります。8ビットでは、ほとんどわかりません。
AVR内蔵のA/Dコンバータは10ビットですので、上位8ビットのみを使っています。

2010年5月25日火曜日

ヘッドホンアンプ: 動作確認・CS8416光入力が無いときのノイズ

ヘッドホンアンプの動作確認
  • LM4562が暖かいです。データシートによると、静止時の消費電流は10mA。電源電圧は±12Vなので、消費電力は10mA×24V=240mW。DIPパッケージの熱抵抗(θJA;ジャンクション~周辺温度)は102℃/Wなので、ジャンクション温度は240mW×102℃/W=24℃の温度上昇が見込まれます。パッケージの温度はそこまでではないものの、それなりに発熱するのが正解みたいです。小信号オペアンプは暖かくならないものと思い込んでいたので意外でした。
  • D/Aコンバータ基板から音が出ません。入力には、デジタルオーディオインターフェース信号が来ています。CS8416のLRCK出力をオシロで当たると、2.7kHzと変な周波数の矩形波が出てきていますが入力信号の有無に影響を受けません。そこで入力系の配線チェックを行うと、自分で書いた回路図が間違っていることに気がつきました。とりあえずCS8416の入力セレクトスイッチの設定を変更して対応しました。
  • とりあえず適当にAVRのファームを書いて、音を出してみます。入力セレクタスイッチを切り替えると、ノイズレベルが変わります。それと切替時のポップノイズも。やれやれ。

CS8416光入力が無いときのノイズ
光入力がないと、ノイズが出ます。どうせ光インターフェースTORX147の出力がばたついているんだろうと、デジタル入力インターフェース基板の出力波形を確認します。


  TORX147出力波形(光入力なし



 
TORX147出力波形(光入力あり

 
 PCM2704出力波形(参考)


光入力がないときの波形は、160mVp-pほどのノイズが乗っているものの、出力がばたついているわけではありません。どうやらCS8416の入力アンプの感度が150mVp-pなので、ノイズを入力信号と認識して、SDOUTからもっともらしい出力が出ていたのが原因のようです。


光入力無信号時のCS8416 SDOUT波形


D/Aコンバータ基板出力(光入力なし


D/Aコンバータ基板出力(光入力あり・無音


D/Aコンバータ基板出力(光入力あり・0dBFS



このノイズは、CS8416のNV/RERR端子とFN1242のMUTE端子を接続してミュートをかける方法で対応しようと思っています。(安易な対策ですが)
ところで、FN1242のデータシートに記載された出力レベルは差動での規定なんですね。実測して、やっと自分の勘違いに気がつきました。

2010年5月22日土曜日

ヘッドホンアンプ: ケース加工・組み上げ

ケース加工は、これまでのルビジウム発振器やFPGA FMチューナと同じ作業ですので割愛します。
今回は、キレイに作ることも目標のひとつ。丁寧に仕上げてみます。

リアパネルの配線


結線バンドで配線を整理


デジタルインターフェース基板を取り付け



リアパネル完成


フロントパネル完成


ここでフォーンジャックのピンアサインを書き留めておきます。
※括弧内は、NEUTRIKのコネクタNJ3FP6Cの表記。

チップ(TIP): 左チャンネル
リング(RI): 右チャンネル
スリーブ(GR): アース



 仮組みテスト

一通り組み上がったら通電テスト。ところが電源投入したらいきなりヒューズが飛びました。やっちまった~って感じです。
さっそく各所を調べてみますが焦げたり熱くなったりしている部品はありません。それにショートしているわけでもないようです。違うとは思うけどひょっとして突入電流のこと?と調べていくと、トランスのメーカWebページに突入電流が大きいという欠点があるので、ヒューズには遅延型を使えと書いてあります。手持ちにはそんなのありませんから、とりあえず0.5Aから3Aに交換して再チャレンジ。

今度は正負電源の出力を確認できました。無負荷で+11.991V/-12.059V。
しかし、正電源基板出力のLEDが点灯しません。・・・説明書に あった追加ジャンパ配線を忘れてました。さっそく配線を追加すると、無事動作してLEDも点灯してくれました。電圧は+5.049V。

つづいてAVRのファームを作成します。
写真は、 AVRのISPライタを接続しているところです。

2010年5月15日土曜日

ヘッドホンアンプ: 基板の組み立て

まずは基板を組み立て

 セレクタ・ヘッドホンアンプ・コントローラ基板 その1



セレクタ・ヘッドホンアンプ・コントローラ基板 その2



デジタル入力インターフェース基板 その1



デジタル入力インターフェース基板 その2

 銅箔面の酸化防止のため無洗浄タイプのフラックスを塗りたくっています。見栄えが良くないですね。汚れは、感光材が少し残っていたからみたい。気付いたときは、時既に遅し、仕方ないのではんだ付け作業続行です。




D/Aコンバータ基板





正負電源基板


この電源基板で使用されるFETとして、2SK117が指定されていますがシルク印刷が逆のようです。私は、代替品として例示された2SK30Aを使いましたが、2SK117とピンアサインが異なるのにシルク印刷通りでした。製作されるときは、ご注意ください。これは、正負電源基板、正電源基板ともに同じです。

負電源基板


TPA6120A2のPowerPADのはんだ付け



 TPA6120A2表面


 TPA6120A2裏面
 


PoerPADに予備はんだ 



はんだ付け前の基板



アース接続用に銅箔テープを貼り付け

 
TPA6120A2をはんだ付け


部品面から見た様子


 
 ヒートシンク接続のためPowerPADに薄い銅板を取り付け


 
使用した0.3mm厚の銅板


 
シリコングリスを塗ってヒートシンクを取り付けて完成

2010年5月11日火曜日

ヘッドホンアンプ: 基板のアートワーク(2)

メイン基板の設計がようやく完了。この作図だけで4~5日もかかった。サイズは100mm×150mm。左半分をゆったり作ったせいで、右半分がかなり窮屈なことになっています。しかも山盛りのジャンパ線。片面基板では仕方ないです。アナログなのでアースを意識して書いたが理想とはほど遠いかんじ。

Minimal Board Editorの画面


パターン図

2010年5月10日月曜日

ヘッドホンアンプ: セレクタ・ヘッドホンアンプ・コントローラ(3)

コントローラ
ATMEGA8を使っています。

ヘッドホンアンプ回路図(3/3)

2010年5月9日日曜日

ヘッドホンアンプ: 全体接続図

基板間の接続図です。

全体接続図

2010年5月8日土曜日

ヘッドホンアンプ: オフセット電圧

オフセット電圧のことを具体的に考えていなかったことに気がつきました。今回のヘッドホンアンプでは、アンプの出力をコンデンサでカップリングせずに、直流的に直結します。今までオペアンプのオフセット電圧が問題となる回路を組んだことがなかったので意識したことはなかったので、いちど検討してみることにします。


(1)オフセット電圧の計算方法
まず手元の参考書によると、反転増幅回路のオフセット電圧の計算方法は次の通りです。
入力でのオフセット電圧とオフセット電流


Rcの決め方


オフセット電圧ΔVoの求め方


但し、Vos:入力換算のオフセット電圧、Ios: オフセット電流。
Rcは、入力バイアス電流を考慮して、オペアンプの+入力と-入力のそれぞれからみたインピーダンスを合わせておけば、バイアス電流のばらつき(オフセット電流)に起因するオフセット電圧の影響を最小限にできるというものです。・・・ということは、インピーダンスじゃなくて直流抵抗をあわせておけばいいってことかな?と考えています。


(2)オフセット電圧の計算
D/Aコンバータ → ヘッドホン出力 系統
・D/Aコンバータ基板
出力にOPA2134のDCサーボ回路がついているので、その回路のオフセット電圧に依存するんだろうなぁと考えています。OPA2134の入力オフセット電圧は1mV。

・入力セレクタのバッファアンプ
LM4562の反転増幅回路で増幅度0.28。
LM4562で発生するオフセット電圧は、入力オフセット電流65nA×フィードバック抵抗750Ω = 0.05mVと入力オフセット電圧0.7mV×増幅度0.28 = 0.2mVの和で、0.25mV。
これと、D/Aコンバータ基板のオフセット電圧1mV×増幅度0.28 = 0.28mV を加味して、バッファアンプ出力のオフセット電圧は 0.53mVとなる。

・電子ボリューム
運用状態では、マイナス利得で使用するはずなので、増幅度1で考えます。
電子ボリューム出力のオフセット電圧は、PGA2311のオフセット電圧0.5mVと入力セレクタのバッファアンプ0.53mV×増幅度1 = 0.53mVを加味して1mVとなる。

・ヘッドホンアンプ
増幅度1なので、TPA6120A2のオフセット電圧は2mV×増幅度1 = 2mV と電子ボリューム出力1mV×増幅度1 = 1mV を加味して 3mV となる。


ライン入力 → ヘッドホン出力 系統
・入力セレクタのバッファアンプ
OPA2134のボルテージフォロワです。非反転増幅回路でのオフセット電流によるオフセット電圧の計算方法がよくわかりません。それに、OPA2134はFET入力でオフセット電流が僅かなので、この際無視します。従って、オフセット電圧は入力オフセット電圧 1mVと考えることにします。

・入力セレクタのバッファアンプ
LM4562の反転増幅回路で増幅度0.5。
LM4562で発生するオフセット電圧は、入力オフセット電流65nA×フィードバック抵抗750Ω = 0.05mVと入力オフセット電圧0.7mV×増幅度0.5 = 0.35mVの和で、0.4mV。
これと、入力セレクタのバッファアンプのオフセット電圧1mV×増幅度0.5 = 0.5mV を加味して、バッファアンプ出力のオフセット電圧は 0.9mVとなる。

・電子ボリューム
運用状態では、マイナス利得で使用するはずなので、増幅度1で考えます。
電子ボリューム出力のオフセット電圧は、PGA2311のオフセット電圧0.5mVと入力セレクタのバッファアンプ0.9mV×増幅度1 = 0.9mVを加味して1.4mVとなる。

・ヘッドホンアンプ
増幅度1なので、TPA6120A2のオフセット電圧は2mV×増幅度1 = 2mV と電子ボリューム出力1.4mV×増幅度1 = 1.4mV を加味して 3.4mV となる。


ライン入力 → アンバランス・ライン出力 系統
外部接続機器の入力はコンデンサカップリングなので、少々のオフセット電圧は構わないと考えていますが、いちおう計算してみます。
 
・電子ボリューム
増幅度2を想定しています。
電子ボリューム出力のオフセット電圧は、PGA2311のオフセット電圧0.5mV×増幅度2 = 1mVと入力セレクタのバッファアンプ0.9mV×増幅度2 = 1.8mVを加味して2.8mVとなる。

・出力バッファアンプ
LM4562の反転増幅回路で増幅度1。
LM4562で発生するオフセット電圧は、入力オフセット電流65nA×フィードバック抵抗4.7kΩ = 0.3mVと入力オフセット電圧0.7mV×増幅度1 = 0.7mVの和で、1mV。
これと、電子ボリューム出力のオフセット電圧2.8mV×増幅度1 = 2.8mV を加味して、バッファアンプ出力のオフセット電圧は 3.8mVとなる。

 各デバイスの関連仕様

(3)ヘッドホンアンプに要求されるオフセット電圧
許容値を調べてみました。マイナーオーディオの部屋記事によると、
数mV以内、可能ならば1mV以内に納める必要がある
そうです。上記の検討結果は3.4mVなので、まあOKレベルなのかなと思っています。




2010年5月7日金曜日

ヘッドホンアンプ: 電源・熱設計

消費電流
電源の検討に先立ち、使用するデバイスのデータシートを参考に消費電流を検討してみました。

  • デジタル系電源 180mA
  • アナログ系電源 100mA(無信号時)、250mA(負荷接続時、最大電流)

電源回路
お気楽オーディオキット資料館で頒布されている電源基板を使用しました。やや形状が大きいですが、拡張性もあり、しかも基板の品質も良くお手軽です。アナログ用±12Vには、正負出力定電圧電源基板(TYPE-D)。デジタル用+5Vには、正出力定電圧電源基板(TYPE-E)を利用させてもらいました。このほか、トランスも頒布品のフェニックス社製Rコアトランス RA40-144です。
なお、この基板で採用されている電力用トランジスタTIP31C/TIP32CDigi-Keyで、ヒートシンクPUG56-30(水谷電機工業)は共立エレショップで入手しました。


電源の熱設計
以前のFMチューナの電源設計では、放熱の見込みが甘くかなり熱かったので、今回はもう少し見直す事にしました。考え方は同じですが、計算用Excelシートを作成して、簡単に検討できるようにしました。

電源の定数検討



ヘッドホンアンプTPA6120A2の熱設計
(1)発生する熱

TPA6120A2の出力電力を変化させたときの電力損失のグラフによると、同じ出力電力で比較するとき、電力損失は電源電圧に比例し、負荷抵抗に反比例しています。想定される出力電力からTPA6120A2で消費される電力を求め、必要なヒートシンクのサイズを検討します。
 以前のヘッドホン出力レベルの検討で、いくつかのヘッドホンのうち最も消費電力の大きなAKG K701は、12.7mW(62Ω)が必要でした。ここで、想定される最大出力として、さらに10dBの余裕を見込むと、12.7mW×10≒0.13Wとなります電力損失は、データシートのグラフより 0.65W(電源電圧±12V)になります。これはモノラル時の出力ですからトータルで1.3Wの電力損失を見込みます。


 TPA6120A2の電力損失(データシートより)

(2)PowerPAD

TPA6120A2には、チップ裏面にPowerPADと呼ばれる放熱用パッドが露出しています。この取り扱いについては、SLMA002E PowerPAD Thermally Enhanced Package Application Report を参照するよう指示があります。見慣れない文書なので、なかなか意味が取れませんが・・・


 PowerPADの正しいマウント方法(アプリケーションレポートより)


このレポートには、プリント基板にビアを打ったり、内層のパターンも活用して放熱せよということが書いてある見たいです。しかし、作れる基板は片面基板なので、基板のパターンでの放熱は余り期待できそうにもありません。


データシートに記載された熱設計に関するパラメータ
Tj: ジャンクション温度 最大値150℃
ΘJA: ジャンクションから周囲に対する熱抵抗 44.4℃/W
ΘJC: ジャンクションからケースに対する熱抵抗 33.8℃/W

(3)ヒートシンクなしの場合
最高周囲温度40℃を想定するとき、のジャンクション温度は 40℃ + 44.4℃/W×1.3W = 98℃ となります。ケース温度は 40℃ + 33.8℃/W×1.3W = 84℃ となります。ケースは触れないくらい熱くなります。そのため、PowerPADにヒートシンクを取り付けることを考えてみます。


(4)銅板の熱抵抗
まずPowerPADとヒートシンクの間の熱抵抗を考えます。実装の都合でPowerPADに薄い銅板をはんだ付けして、その銅板にヒートシンクを取り付けることを考えています。
銅板の熱抵抗による温度勾配は、熱伝導率から求められます。Wikipediaによると、銅の熱伝導率λは398です。

 
  熱伝導率

但し、電力W [W]、面積S [㎡]、長さl [m]、温度勾配 k [℃]。
また、この式を変形して温度勾配を求めてみます。
  
  温度勾配(温度上昇)

使用する銅板サイズを幅1cm、厚み0.1mm、長さ5mmとすると、温度勾配は次の通り。


温度勾配k = 1.3 ・ 5×10^-3 / { 398 ・ (1×10^-2 ・ 0.1×10^-3) } = 16.3 [℃]



(3)ヒートシンクつきの場合
秋月電子のアルミ製小型ヒートシンク(56mm×17mm×20mm)を想定します。この製品の熱抵抗は不明ですが、水谷電機工業PUE56に形状が似ているので類推してみます。PUE56の高さは30mm、熱抵抗は7.39 [K/W] です。一方、秋月電子の高さは20mmで表面積が2/3になると考えれば、熱抵抗は7.39×(3/2) = 11 [K/W] と類推されます。

ここで、TPA6120A2のアプリケーションレポートによるとジャンクションからPowerPADへの熱抵抗は 0.37℃/W(DWP20パッケージ)なので、ジャンクション温度は 40℃ + 16.3℃ + (0.37℃/W + 11℃/W) × 1.3W = 71℃となります。また、ヒートシンクの温度は 40 + 11*1.3 = 約54℃ になりそうです。


2010.5.11追記
PowerPADとヒートシンクの熱結合をうまくできるのか不安視しています。そこで発熱を分散させるために、TPA6120A2をモノラル使用に変更することにしました。使用ししない片側のチャンネルを停止させれば、そのぶん発熱が減ります。

ジャンクション温度は、40℃ + 16.3℃/2 + (0.37℃/W + 11℃/W) × 1.3W = 63℃、ヒートシンクの温度は 40 + 11*1.3 = 約54℃のまま変わらない、と考えてますが合ってるかな。