1.ドロッパ型電源
回路としてはすごく基本的でカンタン!と思っていましたが、まじめに考えると難しく思えてきました。手元にあった「トランジスタ技術SPECIAL N0.28 特集 最新・電源回路設計技術のすべて」の解説記事を見ながら、ひとつひとつのパーツの仕様を考えていきます。
- 電源の仕様
電源電圧はチューナ基板に合わせ5Vとします。負荷電流は450mAを予定していますが、
余裕を考え、仮に1.2倍として600mA程度とします。
- 電源トランス
従って電源出力を600mAとすれば、トランス2次側電流容量は900mA以上必要と
言うことになります。
電源ハムの影響を極力避けるためリーケージフラックスが小さいトロイダルトランスとして、
RSコンポーネンツでアイルランドNuvotem Talema社製70000Kシリーズの
基板実装タイプを購入しました。ブルーの小型トランスで、よくオーディオの自作でも
使われています。
さて、この製品の仕様は1次電圧115Vで規定されています。
これを100Vで使用したらどうなるのでしょうか。
2次側の電圧は、1次側に比例するので100/115になります。
電流は、トランスの巻線の太さで決まるので上限は変わらないはずです。
ただ鉄損(コアの損失)と銅損(巻線の抵抗による損失)が減少するので厳密には
僅かに多めに取れると思いますが、安全を考えて、やはり変わらないと考えることにします。
今回は、細かいことを考えずに 70041K を選んでしまいました。仕様は次の通りです。
容量: 10VA
1次電圧: 115V
2次電圧: 9V 556mA ×2巻線
2次開放電圧: 10.8V
効率: 82%
1次電圧を100Vとしたときの、2次電圧は 9V×100V/115V=7.8V。(定格電流時)
2次巻線はカタログに『Primaries and secondaries for parallel or series connection』
とあるので、少々抵抗を感じますが並列接続します。接続時には極性に注意しないと
短絡してしまいます。電流は 556mA×2=1,112mA となります。
ところで、トラ技SPECIALの記事によると、トランスの電圧変動率ε を求めておくと、
回路定数を求めるのに便利ということで計算しておきます。
上の式より、(10.8V-9V)/9V=0.2 となります。これは1次電圧は115Vの場合ですが、
100Vの場合はわずかに改善されるものと思いますが、同じと考えておきます。
この電圧変動率εから、2次側短絡時の1次側の電流を求める事ができます。
この場合、(7.8V×1.112A/100V)×(1+0.2)^2/0.2=0.62A となります。
2次電流を1次側に換算するには。(V2/V1)×(1+ε) を掛ければ、求める事ができます。
たとえば、3端子レギュレータの出力が短絡した場合に1次電流を求めてみます。
使用した3端子レギュレータμPC2405Aには、1.2Aで動作する過電流制限回路が
内蔵されているので、このときの1次電流は (7.8V/100V)×(1+0.2)×1.2A=0.11A となります。
次に、トランスの出力はブリッジ接続されたダイオードで整流された後、平滑コンデンサで
比較的フラットな電圧となりますが、負荷が接続されるとコンデンサの充放電のため
リプル成分をもち変動します。
一方、3端子レギュレータは、入力電圧は出力電圧よりも高くする必要があり、その電圧差は
最小入出力間電圧として規定があります。従って、平滑コンデンサのリプル電圧の下限は
最小入出力電圧をクリアしている必要があります。
平滑コンデンサの平均電圧とリプル電圧の概算値は、次式で計算できるそうです。
上式より、平滑コンデンサの平均電圧
7.8V×0.9×(1+0.2)×√2 - 3×0.6A×(7.8V/1.112A)×0.2 - 2×0.5V = 8.39V
※但し、商用電圧変動による電圧低下を90Vとみた
リプル電圧の振幅
3/4 ×{0.6A/(2×50Hz×0.0066F)} = 0.68V
※但し、条件が厳しくなる50Hzを想定した
リプル電圧の下限は、Vc - 1/2 ×ΔV より、
8.39V - 1/2 ×0.68V = 8.05V となります。
- 整流ダイオード
定格電流が電源出力の平均電流の1.25倍を選定するそうです。トランスとダイオードで
この倍率が異なる理由として、「トランスの巻き線抵抗がほぼ純抵抗であるのに対して、
ダイオードは順方向ドロップ電圧と抵抗の合成になっているため」と説明されています。(?)
電源出力の平均電流を0.6Aとすれば、ダイオードの定格電流は 0.6A×1.25=0.75A 以上の
ものを選定すれば良いことになります。
また、尖頭逆電圧VRMは、次式を満たすものを選定します。
ダイオードの尖頭逆電圧
2×√2×1.1×7.8V×(1+0.2)=29Vとなります。
※「1.1」は、商用電圧変動の最大値110V。
今回、秋月電子で販売しているPanJit Semiconductorのショットキーバリアダイオード
1N5822を選定しました。定格は40V 3Aで、ドロップ電圧が0.525V(@3A)と
一般のシリコンダイオードよりも低いのが特長です。
小さいとはいえ、電圧ドロップがあるので発熱します。リード線を長めに実装したり、基板の
パターンを広めに取るなど配慮が必要です。
※「1.1」は、商用電圧変動の最大値110V。
今回、秋月電子で販売しているPanJit Semiconductorのショットキーバリアダイオード
1N5822を選定しました。定格は40V 3Aで、ドロップ電圧が0.525V(@3A)と
一般のシリコンダイオードよりも低いのが特長です。
小さいとはいえ、電圧ドロップがあるので発熱します。リード線を長めに実装したり、基板の
パターンを広めに取るなど配慮が必要です。
- 平滑コンデンサ
コンデンサの等価直列抵抗成分(ESR)による発熱が生じます。このため、コンデンサには
充放電電流の実効値の最大値(許容リプル電流値)の規定があります。
平滑コンデンサのリプル電流
1.12×0.6A = 0.67A
平滑コンデンサ容量
(2.5×0.6A) / (7.8V×50Hz) = 0.0038F = 3800μF以上
※但し、条件が厳しくなる50Hzを想定した
平滑コンデンサの耐電圧
1.55×7.8V×(1+0.2) = 14.5V以上
これらの条件をもとに、手持ちの都合もあり日本ケミコンKMHシリーズの
3300uF 50Vを2並列としました。定格リプル電流も1.85Aですし問題ありません。
- 3端子レギュレータとヒートシンク
最小入出力間電圧は標準0.5V、最悪値1Vです。
出力電圧は5Vなので、リプル電圧の下限は6V以上必要です。
リプル電圧の計算値は8.05Vなので余裕があります。可能なら、電源トランスの2次電圧を
より低いものに交換すれば、効率あがり発熱も有利となります。
次に発熱について検討します。
最も不利な条件として、商用電圧変動で110Vとなった場合の平滑コンデンサの平均電圧
7.8V×1.1×(1+0.2)×√2 - 3×0.6A×(7.8V/1.112A)×0.2 - 2×0.5V = 11.04V
従って、3端子レギュレータの電力損失
(11.04V -5V)×0.6A = 3.6W
この電力損失の放熱のため秋月電子のヒートシンクを使用します。ただ、このヒートシンクの
仕様はサイズが30×30×30であることのほかは、熱抵抗すらわかりません。
そこで形状が似ているリョーサンのIC-3030-STLを参考にします。
この仕様書のグラフによると、3.6Wの場合、50度の温度上昇があることがわかります。
これは、負荷電流に若干の余裕を見ているとはいえ、もうワンサイズ大きなものにしたほうが
良いような気がします。実際に温度上昇を確認して対応を考えることにします。
- ACインレット
電源コードを分離できるようにします。たまたまジャンクでACノイズフィルタとヒューズホルダを
内蔵したトーキン(現NECトーキン)製のものを入手できたのでこれを使います。
- ヒューズ
短絡事故によるケーブルやトランスの焼損を防ぐために使用します。
電源トランスの2次側で短絡事故が発生したときに溶断しますが、電源投入時の突入電流や
3端子レギュレータの出力短絡時の過電流(1次側換算0.11A)では切れないものを選定します。
電源投入時の突入電流としては、電解コンデンサが充電されるまでの、数サイクル(30ms程度)
の間、電源トランス2次側短絡(1次側換算0.62A)と同様の電流が流れます。
これらの条件から、
『電流容量は0.11A~0.62Aで、30msにおける溶断特性が0.62A以上のもの』
をヒューズの仕様書により選定することになります。
今は、手持ちの都合で0.8Aのヒューズを使用することにしていますが、
これでは大きすぎてトランス2次側が短絡しても飛ばずトランスを保護できないことがわかりました。
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