2009年8月12日水曜日

FMトランスミッタ: FM変調器(2)

(3)DDS(Direct Digital Synthesizer)
 DDSのブロック図を示します。DDSの内部では基準クロック毎に所定の周波数のサイン波形の振幅を計算してD/Aコンバータに出力します。原理はAnalog Devices社のDDSチップのデータシート(例えばAD9851など)に詳しく解説されているのでそちらを見てください。



DDSのブロック図








 DDS出力の周波数は、次式で決まります。但し、Nは位相アキュムレータのビット数です。






 今回はDDSを使ってFM変調をかけます。変調したい音声をA/Dコンバータでデジタル化し、DDSに接続すればFM変調をかけることができますが、特性よく変調をかけるには両者のサンプルレートを合わせる必要があります。


(4)音声のスペクトラム
 音声波形をA/Dコンバータでデジタル化する場合を考えてみます。



音声信号のサンプリングイメージ









 上の図では音声(正弦波)をサンプリングしてパルス列に変換する様子を示しています。デジタル信号処理の教科書に登場してくるパルス列は、パルス幅が無限小の信号です。
 次に、アナログの音声信号とサンプリングされたデジタル信号のスペクトラムを示します。




アナログ音声信号のスペクトラム
上の例では正弦波なので単一スペクトラムとなる












デジタル音声信号のスペクトラム
基本波(赤色)の他にエイリアス(青色)がずらりと並ぶ








 上の例で音声は正弦波なので単一のスペクトラムですが、サンプリングするとサンプリング周波数の整数倍の周波数の前後に基本波(赤色)のイメージ成分(青色)が出現します。
 こんなスペクトラムの信号をFM変調器に接続したら、中心キャリアの周りに基本波のイメージ成分に対応したたくさんスペクトラムがずらりと並ぶことになります。これらの信号は当然帯域外にもまたがりますのでスプリアスになってしまいます。そのため、変調に不要な信号成分は、DDSに接続する信号からあらかじめ取り除いておく必要があります。この処理はサンプルレート変換の過程で行うのが一般的です。

(5)ゼロ次ホールド
 今回製作したFMトランスミッタの音声サンプルレートは192kHz。そしてDDSの基準クロック(サンプルレート)は49.152MHzと両者の間は256倍も開きがあります。一番簡単なサンプルレートの変換方法は、「そのまま繋ぐ」ことです。DDSから見ると、256サンプル毎に周波数設定が階段状に変化しているようになります。これはゼロ次ホールドと呼び、ちょうどD/Aコンバータの出力波形もこのような形になっています。




ゼロ次ホールド波形(青い波形)









 上の図では、赤いが音声波形のサンプリング点で、次のサンプリング点まで同じレベルを(DDSの基準クロックで256回)ホールドしておいてDDSに渡します。(青い波形)

 ところで、この「ゼロ次ホールド」信号のスペクトラムはどのようなものになるでしょうか。(4)で示した音声信号のサンプリング波形と同様に、サンプリング周波数の整数倍の周波数の前後に基本波(赤色)のイメージ成分(青色)が出現するところまでは同じですが、振幅特性に変化があります。(4)の信号では、幅が無限小のパルスであったのに対し、「ゼロ次ホールド」は階段状の波形です。このためデジタル信号処理ではデジタル信号と矩形波の畳み込みとして扱われ、その周波数特性はsinc関数(シンク関数)で表されます。



sinc関数
但し、xはサンプリング周波数で正規化した周波数








「ゼロ次ホールド」の周波数特性
sinc関数(緑のライン)のエンベロープに沿って基本波もイメージ成分もレベルが低下する

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